梱包を解いて考え込んでしまいました。写真の通りの外観もそうですが、ここまで
傷んでしまった製品を修理できるか、安請け合いしてしまったのではないだろうか。
不具合は「ラジオが鳴らない」です。ご依頼主にどう謝ろうか、体の良い理由を・・。
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乾電池を入れ、全面のボタンを操作するも
全く無反応です。お聞きしていた通りです。
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SONY製ICF-SW20、ダブルスーパーヘテロダイン
方式を採用するMW・SW・FMの3バンドラジオです。
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現在もヤフオク出品の中古品で5000円前後もする
人気製品です。取りあえず曲がったアンテナから直します。
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ペンチで軽くつかみ、つかむ位置を変えながら
少しずつ修正します。急ぐとボコボコになります。
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ロッド内に収納できるようになりました。これだけの修理ならば楽勝・・ですが、
先が思いやられます。ラジオの外装表面には何やら得体の知れない汚れが
広がっています。もちろん、汚れが故障の原因であるはずはありません。
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乾電池を入れてみます。単3
乾電池を2本(3V)使用します。
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表側カバー前面下部に並ぶ押しボタンが、電源とバンド切り
替えを兼ねています。ボタンの周囲に汚れが詰まっています。
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裏側カバーを開けます。数か所で
ネジ固定されています。
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裏側カバーは数か所でツメに
よる軽い篏合があります。
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内部のユニットは特にネジ固定されて
おらず、簡単に取り出すことができます。
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表側に返すとダイヤルパネルと指針が見えます。
薄型スピーカーが一緒に外れてきます。
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内部左側に回路基板、右側が周波数選択機構、下側にタクトスイッチが
並びます。基板上にはIFコイル6個とクリスタル発振子3個が見えます。
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表側のボタンがタクトスイッチを押し込み
電源やバンドを切り替える構造です。
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外側ボタン周りの汚れはさておき、肝心の
タクトスイッチの状態を確認します。
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クリック感が完全に失われ、強く
押し込んでも全く導通しません。
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タクトスイッチ4個とも、全く機能していません。分解して
修理できる範囲ではなく、新品に交換するしかありません。
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ダイヤルパネルを取り外します。
汚れや傷が付かないよう留意します。
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タクトスイッチを搭載する小型基板です。精緻に作られて
いますが、メイン基板との接続はまだリボンケーブルです。
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タクトスイッチが固定されている半田面を
確認します。手作業で交換できるレベルです。
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タクトスイッチの半田固定(各4か所)を外します。
この肝心な時に、半田吸い取り機が故障中です。
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1個目を取り外しました。表面実装用に
近い、高さ1.5mmの極薄型です。
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4個とも取り外しました。しかし、
同等部品が入手できるか不安です。
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取り外した状態でタクトスイッチの動作を再度
確認してみます。やはり完全に壊れています。
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タクトスイッチはNO(ノーマルオープン)
なので、この状態で電源を接続してみます。
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タクトスイッチが押されると、FM受信の場合この2点が
短絡されるはずです。ピンセットの先でショートさせます。
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あらら、いきなりFM放送が元気よく受信・再生されます。
SONY製ソリッドステートの高い耐久性、回路は無事です。
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同調ツマミを回して受信局を変えてみます。MW・SW・FMいずれも
問題なく受信できます。評判通り高感度でクリアなSONY音質です。
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ネットショップを散々探し回ったあげく、表面実装用
(SMD)で高さ1.5mmのタクトスイッチを見つけました。
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元の位置に置いてみます。SMDなので
端子が短く、基板のホールに届きません。
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何かスイッチへの配線を工夫しなければ
なりません。取りあえずスイッチを固定します。
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瞬間接着剤でSMDを基板の所定位置に固定します。
耐熱性に乏しいものの、配線が終わるまで持てばOK。
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写真右側から、FM、MW、SW、OFFの
機能です。配線作業にかかります。
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ディスクリート部品から切り
落としたリードを使います。
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適当な長さに切ったリードをU字型に曲げておきます。
タクトスイッチが7mm角、老眼には辛い作業です。
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U字型のまま基板のホールに差し込みます。
バネ様に広がろうとするので落ちてきません。
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半田面側を横方向に折り曲げておきます。
・・実際にはそのままでも作業できます。
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U字型のままリードを半田付けします。
1本ずつ作業するよりも簡単です。
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同様にして、クトスイッチ4個分、8本の
U字型リードを先に半田付けします。
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もちろんこのままで良い訳はありません。
タクトスイッチが4個とも同時にONの状態です。
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部品実装面側に出ているU字型リードを
タクトスイッチの端子側に折り曲げます。
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端子と2mmほど重なる長さ・
位置でリードを切断します。
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タクトスイッチの端子に接触する
まで、さらにリードを折り曲げます。
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接触部分を半田付けします。裏側の半田
付けが溶け出さないよう、一瞬で作業します。
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1個目タクトスイッチの4本の端子にリードを接続しました。タクト
スイッチの本体(金属部分)に接触していないか、ルーペで確認します。
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2個目以降も同じように
リードに接続していきます。
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4個とも接続作業を終えました。外観的には上手く
いったように見えますが、機能しなければダメです。
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リードを接続した状態で、各タクトスイッチの
導通(押下時)と非導通(開放時)を点検します。
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電源を接続し動作確認を行います。
問題ありません・・当たり前ですが。
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小型基板を元の位置に戻します。同調機構に
僅かでも干渉しないよう慎重に組み込みます。
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ダイヤルパネルを戻します。予め
細かな埃を落としておきます。
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傷みの進んだ外装を何とかしたいものです。スピーカーグリルの
パンチングメタルは、塗装が剥げ落ちサビが広がっています。
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固定のため折り曲げてあるツメを起こします。
無理すると折れてしまうので慎重に作業します。
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スピーカーグリルは金属製なので、樹脂製
本体と別にしなければ補修できません。
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取り外したパンチングメタルです。ひどく
汚れていますが、幸い傷や変形はありません。
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ペーパーをかけて塗装もろともサビを
落とします。金属の光沢面が出てきます。
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元と同色のブラックを吹き付けます。
スプレー缶を温めて霧を細かくします。
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パンチングの目が細かいので、一度に多く
吹くと、すぐに塗料で目詰まりします。
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樹脂製の表側カバーをクリーニングします。
クラシックカーのレストアのような気分です。
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家庭用洗剤とアルコールを併用して表面を拭き上げ
ます。何の汚れなのか不明ですが一挙に落とします。
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押しボタンの周囲にこびり付いていた
汚れも、ウェスを入れて丁寧にかき出します。
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アクリルガラスに傷付けないよう優しく
汚れを拭き取ります。透明感が戻ります。
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塗装が完全に乾燥するのを待ち、
スピーカーグリルを本体に取り付けます。
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内側でツメを折り返して固定します。万一
破断した場合は接着するしかありません。
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SONYのクオリティが蘇ってきました。ブラックに
再塗装されたパンチングメタルが精悍です。
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表側・裏側カバーに内部ユニットを収めて
みます。特に問題ないようですが・・
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SWバンド切り替えのスライダーが
この状態です。見落としていました。
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歯ブラシにアルコールを浸み込ませ
溝に入り込んだん汚れをかきだします。
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些細な汚れが残っていただけですが、目立ちます。
細かく丁寧に仕上げようとすると時間がかかります。
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回路基板の半田面に貼り付けられて
いた、絶縁保護用のフィルムです。
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フィルム裏面の接着力が失われている
ので、新たに両面テープで貼り付けます。
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裏側カバーに取り付けられているロッドアンテナ
です。先に折れ曲がりを修正しておきましたが、
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表面のメッキに広がる酸化膜を
金属用研磨剤で落とします。
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メッキ面は比較的簡単に光沢が戻り
ます。一挙に見栄えが向上します。
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裏側カバーを閉じ、ネジ固定します。
レストア作業も終わりが見えてきました。
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表側カバー、裏側カバーともにクリーニングした
結果、全体の質感が大幅に向上しています。
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と、まだ見落としがあります。選局ツマミ
(樹脂製)も汚れに塗れベトついています。
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ローレット溝に入り込んだ汚れも、最後の仕上げの
つもりで洗剤と歯ブラシで徹底的にかき出します。
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修理作業を全て終えました。まるで
中古車のレストアのような工程でした。
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小型ながら高性能・高音質を秘めたSONYの逸品です。往時の姿を
取り戻してみると、いまだ人気が衰えない理由が良く分かります。
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CSで放送されている「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ(Wheeler
Dealers)」を
ご存知でしょうか。年代物の中古車を、性能や機能を修復すると同時に、技術を駆使して
限りなく新車時の風合いを復活させる番組です。CS無料放送の日に録りためておき、
時々楽しんでいます。車のような大掛かりな作業ではありませんが、小型の製品でも
失われた機能を取り戻すだけでなく、往時の風貌を蘇らせる仕事はやりがいがあります。
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